ギャンブルとキャバクラのコンボで遊び惚けていたら仕事も順調で昇給しまくって、アホみたいに金を使わない限りは何とかなる感じになってさ、今はそこまでギャンブルもしないわけ。でもたまに思い出したかのようにギャンブルをするんだけど……。
これは負けなのか?
前回の体験日記はこちらから。
田舎育ちの花奈ちゃんが急に「都会にあって田舎にないものってなにかな(花奈だけに)」とクイズを出してきた。いやあ……ごめんね。都会育ちだからさっぱりだ。コンビニはまああるでしょ。10キロ先とかに。高層ビルも100キロ圏内にはあるでしょ。つまり答えは――
ホテル街!
花奈ちゃんはホテルに泊まったことある?!
おや……? ホテルに泊まったか聞いただけなのにどうしてそんなに恥ずかしそうなの? ねえ、ホテル街の何がそんなに恥ずかしいの? 泊まるだけでしょ? 教えてよ花奈ちゃん。
あ、すみませんでした。調子乗りました。
急に深刻な顔をして「今日恥ずかしい思いをした」と花奈ちゃんが言ってきたけど、何故か詳細は聞かせてくれない。だからよっぽど恥ずかしい思いをしたんだろう。
うんうん。言いたくないよね。
分かるよその気持ち。
聞かせてよ。花奈ちゃんの黒歴史。
ほーん。なるほど。外で父親と電話していたら方言が出て変な目で見られた……ね。全然恥ずかしくないじゃん。私は小学生の時に職業体験ってのがあってさ、みんな現地集合なわけ。同じ職場に行く人がもう一人居てさ、私が先導して向かってたけどちょっと迷ったのよ。
もちろんお互いに不安でやべえよ……って気持ちになるの。でもさ、昔の私は何の根拠もないポジティブシンキングが凄かったのね。だから自分の頭を指で突きながら笑ったよ。
「大丈夫。地図は頭に入ってる」って。
頭に入ってないから道に迷ったのにね。
最終的になんとか集合時間前に着いたからよかったけど、多分あれが記憶にある中で一番古い黒歴史かな。方言が出て恥ずかしい? 馬鹿言っちゃいけないよ。もっと恥を背負え。
それにこの姿の方が黒歴史だと思うよ。
待ちに待った花奈ちゃんのバースデーイベント。この日は招待されたお客さんしか入れないんだとか。そしてキャバクラのバースデーといえばオリシャン。中身のシャンパンはそこまで高くないのに、ボトルのデザインがオリジナルになることで価値が高まる恐ろしいやつ。
誕生日だしお金もあるから1本くらいは開けてやらないとね。
私の分と花奈ちゃんの分で140,000円……。ただのシャンパンが高級シャンパンに……。いくらお金があるといってもこれはちょっとなあ。以降の注文は控えめにいくか。
ママぁ……。
おっといけない、あふれ出る母性に負けている場合じゃない。この日のために買っておいたプレゼントを渡さないと。じゃないとオリシャン2本分以上のお金が無駄になる。
はい、ショップで売ってたドレス。採寸なしの既製品一発買いという大博打で、しかもごてごてしてるし腰回りは結構絞ってそうだからもしかしたら着れないかもしれない。でもとりあえず試しに着て欲しい。着れなかったら調整してもらうから、後でそのまま返してね。
あ、クリーニングはこっちでするから。
ところで花奈ちゃんはいつからこの仕事してるの? 今日来てる他のお客さんも花奈ちゃんが招待状を渡したから来てるんだよね? あれかな? 昔からのお客さんとかかな?
あ、じゃあ私よりも後に招待した人たちなんだ。へー……。まあいいけどね。私の方が花奈ちゃんのことを考えてるし、頭の中はいつもおっぱいでいっぱいだし、もう目を瞑っただけで花奈ちゃんのお尻が見えてくるくらい。これを愛と呼ばずして何と呼ぶ。性欲か?
簡単さ。私と結婚すればいいよ。
もしかしてもう結婚してた? 大丈夫だよ。私は心が広いからね。離婚届けにサインして、あとはお役所に提出するだけ。それから婚姻届けを出せば晴れて夫婦の仲間入り。
なーんだ。よかったあ。それだけか。今どうやったら花奈ちゃんの旦那が花奈ちゃんを嫌いになるかってあらゆる手段を考えてたよ。それくらいの悩みなら簡単に解決できる。
いつもは花奈ちゃんの方から誘ってもらってたけど、今日は特別な日だからね。もし花奈ちゃんが良ければだけど、営業が終わったら一緒に出掛けようよ。
気にすんなって。じゃあそろそろ閉店時間だし、お会計頼むよ。
たけぇッ!
今日は誕生日だからね。花奈ちゃんがどれだけ地位の高い人間で、他の人間がどれだけちっぽけな虫けらなのかってのを知って欲しくてさ。虫けらどもを見下ろすには展望台が一番だと思ったんだ。見てよあの光。私を含めたゴミムシどもが必死こいて働いてるオフィスの照明だよ。
大丈夫。私は人間失格だよ。
私こそありがとう。花奈ちゃんの貴重な誕生日にこうして過ごしてくれるとは思わなかったよ。だってほら、私は控えめに言って変態だし、花奈ちゃんは天使だし、アルマン●を一回も頼んだことがないクソ客だし。花奈ちゃんはやっぱり……何度考えても天使だし。
ねえ花奈ちゃん。私もさ、実は伝えたいことがあるんだけど……。ああ、やっぱり今はやめておくよ。花奈ちゃんもそろそろ帰らないと。これ以上遅くなったら駄目だ。夜道は危ないからね。気を付けないと私みたいな変態に襲われるかもしれないよ。
……うん。それじゃあまたね、花奈ちゃん。また、バニーガーデンで会おう。
展望台を降りて、いつもの通り道へ。別れの挨拶を済ませると花奈ちゃんの後姿が少しずつ小さくなっていく。それなりに歩いたせいか、すっかり酔いも覚めてしまった。いつからだろう。花奈ちゃんがキャストではなく、一人の女の子に見えるようになったのは。
最初はただの偶然だった。落ち込んでいるところで出会ったキャッチ。きっと彼女は俺を財布として見ていると疑っていたあの日。あれから時が経ち、交流を深めていくにつれて彼女の外見ではなく、彼女の内面に惹かれていっているのだと気付いた。
そうだ、俺は本気で花奈ちゃんが好きなんだ。
そしてきっと、それは花奈ちゃんも同じで――
次回、『バニーガーデンからノゾムキミノミライへと』に続く。
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